
原一探偵事務所では、メディアを招待しての公開尾行訓練を行なってきました。
こんな企業秘密公開みたいなことをやっている探偵社はほかには聞いたことがないです。
私も2回参加させてもらったことがあり、感銘を受けました。
1回目の徒歩・車両尾行の基本を見せてもらった時のことをリポートします。
イベントは埼玉県川越市にある原一本社の駐車場からスタートしました。
イベントのナビゲーター役の探偵が運転する車の助手席に座り、我々が先に出発しました。
【原一の駐車場から出発!】
それを新人探偵2人の乗った車と教官の車のチームが尾行します。
渡された無線のイヤホンを装着すると、探偵の会話が聞こえてきます。
そう、このイベントでは自分を尾行する探偵の会話を聞きながら尾行されるのです。
【渡された業務無線端末】
第三者に聞かれても意味がわからないように、探偵の通信は暗号・隠語を多用します。
だからそのまま聞いていても意味不明な箇所が多いのですが、ナビ役の探偵が逐次説明してくれます。
いつも対象車両の真後ろにつけているとバレやすいです。
特に距離が詰まると、真後ろの車のナンバープレートや車内の様子はルームミラーでよく見えます。
そんな間近で何度も見られたら、尾行はバレバレです。
そうならないように、間にちょうどそこを走っていた関係ない車を挟むテクニックがよく使われます。
自分たちを尾行している探偵もちょうどそれをやっています。
「あいだ1」とか「あいだ2」という声が聞こえます。
間にはさむ車の数をチームで共有しているのです。
間にはさむ車の数を増やすほどバレにくくはなりますが、対象車から引き離されたり、見失うリスクも上昇します。
「信号、黄で通過。ゆるやかなカーブでその先、赤」などと、対象車と自車の動き、道路や信号の状況を報告するのも聞こえます。
ターゲットのウインカー、渋滞状況、車線や幅員、道路工事、警察の警備状況など、すべてを共有するそうです。
車両尾行は尾行が発覚したり失尾しないことも大事ですが、交通事故にも気をつけねばなりません。
また、パトカーに停められでもしたら、そこで尾行は終わりです。
さまざまなことに気を配り、情報を共有し、頭の中の地図でチーム全車の動きを把握しながら、連携して追尾します。
自分たちの車はショッピングモールの駐車場に入ります。
新人探偵の車は自分たちの後から駐車場に入って来ることはしないようです。
このことについてナビ役の探偵に聞いてみると、次のようなことを教えてもらえました。
【ショッピングモールの駐車場】
対象車が駐車場に入った場合、一番近い位置で追尾していた車がそのまま駐車場まで追うのはマズイです。
対象が尾行を疑っていた場合、降車して待ち構えている可能性があります。
そこでその車は駐車場に入らずに通り過ぎ、近所で時間を潰します。
かわりにチームの別の車が駐車場に入り、安全確認します。その報告を受けてから、続いて駐車場に入ります。
先に駐車場に入った探偵はそのまま徒歩尾行に移行し、対象者から目を離さないようにします。
ここで私としては別の疑問も感じました。
浮気調査の目的は、ホテル出入りの写真を撮ることです。
ショッピングモールの中にホテルはない。
ならばショッピングモール内を徒歩で追う必要はないのではないか?
買い物が終わるのを待って、出てきた車を追えばいいのではないか、と。
ナビ探偵の答えはNoでした。
地方で多いのが、ショッピングモールの駐車場で合流するパターンです。
二人とも車で来て、一方の車に乗り込んでデートに出かけ、駐車場に戻って別れます。
車が駐車場から出てきた時にはすべてが終った後かもしれないわけです。
ほかにも車を停めたまま二人で電車で出かけたり、いろいろな行動パターンがあります。
だから駐車している車を監視してぼんやり待っているだけではダメなのです。
人が車から降りたなら徒歩で追わねばなりません。
【モール内を尾行を受けながら歩く】
私たちはショッピングモール内を歩き始めました。
探偵チームも徒歩尾行に移行しています。
自分を観察する会話が聞こえます。
「ショップゾーンの方向に進行中。」
立ち止まってみるとその報告が聞こえます。
「今、立ち止まった。キョロキョロしてる。」
自分の一挙手一投足の報告を聞くのは妙な気分です。
しかし、いくら見回してみても探偵の姿を見つけることはできませんでした。
事前に会って顔を知っているにもかかわらずです。
まして面識のない探偵に尾行された場合は、気づくのはとても困難だろうと推測されます。
私は発見を諦めて歩きだしました。
「進行を再開した。」
歩きながらナビ探偵が、尾行に関するいろいろな豆知識を教えてくれます。
徒歩尾行中は対象に姿を見られないようにすることが原則だそうです。
一度姿を見られたからといって必ずしも怪しまれるわけではないですが、かすかに記憶には残ります。
すると次に見られた時に「さっき同じ人を見たような気が・・・」と思いだします。
そして三度目に見られた時は、探偵の尾行を確信するに至ります。
つまり、一度でも姿を見られるとその後の行動が大きく制約を受けてしまうのです。
確かに状況によっては大胆に接近して隠し撮りするような例外もあります。
しかし、原則は見られないことなのです。
私たちはショップゾーンに到達し、大きな雑貨店に入りました。
【雑貨店に入る】
私たちを尾行する探偵も入店したのが無線でわかります。
尾行対象がお店やレストランに入った場合、まず外で待つのがいいか、いっしょに入ってしまった方がいいか判断します。
小さい食堂、喫茶店、ショップなら顔を見られないために外で待つべきかもしれません。
今回のようにいっしょに入店する場合は、最初に出入り口の数を確認するそうです。
知らない間に店を出られて見失うのを防ぐためです。
店で商品を触っていると、観察されているのが無線でわかります。
どこから見られているのは、依然としてわからなかったです。
尾行では対象の行動をよく観察することが大事だそうです。
例えば、コンビニで避妊具を買えば今日浮気をするということだし、飲み物を2つ買えば合流は間近ということです。
浮気調査でなく、素行調査の場合は、万引きをしていないかもチェックポイントです。
看板などをじっと見ることがあれば、そこに行こうとしている可能性が高く、先回りできます。
トイレに行くのも重要なサインです。
便意を満たしておくとともに、身だしなみを整えておくために、人と会う前にトイレに行く人は多いです。
道端で急に立ち止まったら、タクシーを拾う兆候かもしれません。
乗られてからでは遅いので、車担当に連絡して車を出させます。
このように相手をよく観察して先手を打っていくことが大切とのことです。
店を出て駐車場に着いた時点で、徒歩尾行の段落を終了にしました。
全員集合して状況設定をリセットします。
【全員集合して新たな状況設定へ】
新人探偵2人のうち女性の方とベテラン探偵が不倫カップルの役をします。
ナビ探偵が運転し、私が同乗する車と、教官の車がチームを組んで、それを追います。
【黄色の車を挟んでグレーの車を追う】
尾行をカモフラージュするために、対象車との間に関係のない車を挟むテクニックがあることは冒頭で紹介しました。
今度はそれの実演を見ることができました。
当たり前ですが、間に入れる車は選んでいました。
どんくさい車をはさむとその車のために対象車から引き離されたりしかねません。
子供を乗せた女性の車や老人の運転する作業車ははずしていました。
しかし、これを実際にやるのはここに書くほど簡単ではないです。
フロントガラスの反射やスモークで車内の様子を一瞬で判断するのは難しい場合も多いからです。
少なくとも私はナビ探偵が説明してくれたことを瞬時に判断できませんでした。
また、間に入れないにしても、無理があるとクラクションを鳴らされたり、パトカーに止められたりしかねません。
スマートにかつ断固とした運転で周囲の車の配置をコントロールしていく必要があるわけです。
角を曲がったのについて来られると尾行の疑いが深まります。
特に何度もついて曲がるのは絶対マズイ。
相手はついてくるかどうかを確かめる目的で曲がっている場合もあります。
同じ方向に2回曲がれば、それは元来た方向に向かっているわけであり、3回曲がれば堂々巡りです。
これは尾行を警戒している車の典型的な行動です。
というわけで、ついて曲がらずに尾行を続けられる方法論が必要です。
これは間近の尾行車は直進して離脱し、後続のチーム車が曲がって尾行を続ける方法があります。
離脱した車は別経路で尾行に再合流します。
東京、京都、大阪、札幌などの都心部では道路が碁盤の目状になっています。
そこで対象車が走る道路と平行な別の道を通って尾行に合流したり、先回りをしたりすることが可能です。
これを「平行移動」と言います。
これらのテクニックを実演で見せてもらえました。
【ホテル入りする不倫カップル役の探偵】
最後はターゲット車がホテルに入るのを追いました。
真後ろについて駐車場に入らず、建物の脇に駐車しました。
ここでは、ホテル入りで部屋を選ぶシーンを撮るテクを見せてもらいました。
多くの探偵社ではホテルの出待ち写真を撮りますが、ホテル入りのこの写真はどうやって撮っているのか謎でした。
怪しまれずに撮れる方法に納得しました。
ただ、この方法はやり過ぎ感があるので、最近はあまりやっていないそうです。
【ホテルで部屋を選ぶシーン】
ホテルまでたどり着いたところでイベントは終了し、食事に行きました。
徒歩尾行と車両尾行の基本を網羅した内容で満足でした。
プロの尾行を堪能し、その技術の高さ・奥深さを納得できた1日でした。
1回目からかなり時間を空けてですが、2回目をやってもらえました。
この時は在来線および新幹線など、鉄道で移動する対象の追尾がメインテーマでした。
この時も非常に興味深い内容になっているので、ぜひ読んでみてください。